コミックや小説などさまざまなジャンルで電子書籍の個人向け配信の普及が進む中、大学図書館が必要とする日本語学術書の電子化は進んでいない。こうした状況を改善すべく、慶應義塾大学の図書館であるメディアセンターでは、2010年から先進的に電子学術書利用実験プロジェクトに取り組み、KCCSが開発した電子書籍配信のプラットフォーム「BookLooper」を利用し、共同で実用化を進めてきた。そして現在、BookLooperを活用した国立・私立の8大学が参加している共同実験で、大学図書館全体でのニーズの検証と、電子学術書の利用モデル確立を目指している。
2000年代に入り、海外の大学図書館では学術雑誌から始まり書籍へと電子化が急速に進んだ。しかし、日本の大学図書館では学術雑誌と一部の書籍が電子化されたものの、大半の書籍は冊子体のみが提供される状況が続いていた。
「このままでは、日本の大学図書館は取り残されてしまうという危機感を持ちました。そこで、学術出版社の協力を得ながら、日本語の学術書を電子化し、図書館のサービスとして利用できるようにしたいと考え、電子学術書利用実験プロジェクトを計画しました」と語るのは慶應義塾大学 メディアセンター本部 事務長付 島田 貴史氏だ。
電子化された学術書の利用には、コンテンツ以外にプラットフォームが必要になる。メディアセンターではその開発を担う企業を探した結果、KCCSに電子学術書プラットフォームの開発を依頼することにした。
「KCCSを選んだ最大の理由は、大手通信キャリアのコンテンツ配信における認証課金システムを開発・運用した実績があり、認証やコンテンツ管理のノウハウを持っていたことです。図書館では個人へ本を貸し出すため、個人認証が欠かせません。また当時はオンライン上でしか電子書籍を読むことができないものが多く、地下鉄などネットワークがつながらない場所もあったため、オフラインでも読むことができるダウンロード方式を採用しました」(島田氏)。
慶應義塾大学メディアセンターでは、2010年からの実証実験で大学における電子学術書に対するニーズなどが明らかになってきたと評価している。そして2013年10月からは、慶應義塾大学に加え、大阪大学、神戸大学、東京大学、名古屋大学、奈良先端科学技術大学院大学、福井大学、立命館大学の8大学合同で、日本の大学で初めての電子学術書の総合的な実証実験が始まった。
実験では、電子学術書の発見性を高めるナビゲーションシステムとの連携を行った上で、学生や研究者が電子書籍化を期待する書籍の調査、授業での利用実験などが行われ、大学図書館が提供する電子学術書の利用イメージを明らかにすることが期待される。
「すでにいくつかの大学で電子教科書や教材配信にBookLooperを活用いただいていますし、そのほかにも導入のご相談を受けており、電子学術書が普及してきているのを実感しています。今後KCCSでは教師や学生間で電子学術書の書き込みの共有や、ナレッジDB(データベース)との連携など、より深い学習や学術研究に活用できる機能を充実させながら、さらなる電子学術書の普及に貢献していきたいと思っています」とKCCS インターネットメディア事業本部 電子書籍事業部 事業部長 津田 康弘は語る。
KCCSはそうした取り組みを積み重ねながら、電子学術書の本格的な利用に向けて、大学図書館をはじめとする学校関係者や学術出版社との協議を行い、学生を含めそれぞれの関係者にメリットのあるビジネスモデルの構築を目指している。
慶應義塾大学との電子学術書利用実験プロジェクト 全体イメージ
取材時期:2013年11月